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2008.09/26 [Fri]
かぎ

一昨日、うちの裏庭からみえたサンセット
ひとりごとです。
10年とちょっと前、ハワイのカウアイ島に住んでいました。
そのころわたしのキーホルダーには、家の鍵と、車の鍵の二つしか、鍵がついていませんでした。
そのとき付き合っていた人(前夫)がそれをみて「単純な生活をしているね」と笑ったものです。 彼は仕事のほかに自分のビジネスももっていたので、彼のキーホルダーにはそのオフィスの鍵やら、自分の車の鍵やら、ビジネスパートナーの車の合鍵やら、自分の住んでいた家の鍵やら、たくさんの鍵がじゃらじゃらとついていました。
後にオアフ島にうつり10年の間に、私のキーホルダーはどんどん重たくなっていきました。
アパート関係3個、オフィス関係3個、車1個、前夫の車の合鍵、その他もろもろ、このキーホルダーをなくしたら生活がとまってしまう、というほどに。
いつもなぜか、前夫がいった「単純な生活をしている」という言葉を、わすれませんでした。 キーホルダーをみるたび、自分の生活の責任や重さを感じてきました。
私も人並みに、社会で責任のある人間になれたようで、うれしく思いました。
別居してしばらくしたある日、前夫のもとを訪ねたとき、テーブルの上におかれた鍵を見つけました。
オアフ島への引越しとともにビジネスをやめ、ホテルで働いている彼のキーホルダーには、車と家の鍵しか、ついていませんでした。
それをみて、なぜかとてもさみしくなりました。
同時に、いつも彼がいっていた言葉を思い出しました。
どんな状況も、一生は続かない。
時は、確実に流れいてる、そう思いました。
8月11日、まちにまったオーストラリアのビザが取れました。
8月の終わり、会社へオフィス関係の鍵を返しました。
私の手元には残ったのは、アパートの鍵と、前夫の車の合鍵だけになりました。 すっかり軽くなったキーホルダーをみて、自分がどこにも属さなくなったようでものすごく心細くなり、なにかいろいろなことが遠く感じられました。 一人取り残されてしまったように。
そして急に、本当にこれでよかったのだろうか、と思いました。
9月8日。 不動産屋がきて、アパートの鍵を1セット返却しました。 翌日に出発なのにまだまだアパートにはものがのこっていたこと、最後まで娘がアパートで私とすごしたいといっていたこともあり、出発ぎりぎりまでアパートにいたので、娘がもっていた1セットをキープさせてもらっていました。
最終日、のこっていたものすべてを捨てて、スーツケースを前夫の車に移動させ、完全にからになったアパートのキッチンのカウンターにもう1セットの鍵をおきました。
ばかのように、何度も何度も、鍵をおきなおしました。
4年間すんだアパート。 私と娘の思い出がつまった場所。 自分自身を考えることのできた場所。 大切にしていた猫が死んだ場所。
家具を除いてもさほど大きくは見えなかったそのアパートの出口にから、動くことができませんでした。
ドアをでたら、もう2度ともどれないんだよ。
ドアをでたら、本当におしまいなんだよ。
お終い、か。
何度も何度も、自分に本当にいいのか、と問いかけました。
でも、時間になりました。
あんなに大変だった物の整理や掃除も、終わったんだ。
時は確実に流れている。
車に荷物をのせて、娘を学校へ向かえにいきました。
9時。 ああ、今このときなんだ、本当に。
前夫の家に到着し、朝ごはんを食べました。
着替えて、出発の準備をし、借りていた車の合鍵を返しました。
そして、私の手元から、すべての鍵がなくなりました。
完全に、ハワイに住む人、ではなくなったんだ。
そしてなぜか、一人ぼっちだ、と思いました。
空港って、どの国でもないんだ、と聞いたことがある。 一歩イミグレーションをでれば、そこはどこかの国の領域内ではあっても、どの国にも属さない場所になる、と。
そのときのわたしはそれにぴったりだと思いました。
オーストラリアにきて、2週間がたちました。
最初の1週間は自分の居場所が見つけられなくて、つらくてつらくて仕方がなかった。 右も左もわからず、一人ではなにもできない不甲斐なさが、悲しくて仕方がなかった。
毎日「今だったらハワイに戻れる、今ならまだ」と思っていました。 あそこでなら、今すぐ自分の居場所が見つけられる。
毎晩ないている私を見かねて、1日、夫が休みをとってくれました。
その日、出かける前に、鍵をくれました。
ガレージのドアと、家のドアと、そして車の鍵。 3つ。

ハワイで私が鍵をつけるのにつかっていたものと同じような、長いストラップにつけて。 私用に、と。 いつでも家に出入りできるように、といって。
それから一人でも出かけられるように、バスの乗り場や路線を調べました。 日本のものが買えるお店もひとりでいかれるように調べました。 いつもいくスーパーやクリーニング屋、郵便局がはいっているショッピングセンターへの行き方も調べました。 車で夫と出かけるときには地図を見ながら立地を確かめました。
そしてすこしずつ、私の居場所はここになるんだ、と思えてきました。
たった、3つの鍵がきっかけで。
悲しみの中にどっぷりつかっているときには、それが終わるときがくるとは思えないでいるけど、でも確実に時はたって、状況は変わる。
それがよくても、悪くても。
これからは一生返すことのない鍵を、手に入れる。
あるいは、もしまた鍵が完全に手元からなくなってしまう日がきても、私はひとりじゃない。
だから、もうハワイに戻ることはない。
よろしくね!
日本に住んでいるママちゃんと言います。
masumiさんのブログからやって来ました。
アデレードは、これまで3度行ったことがあり、
第二の故郷のようなところです。
くんちゃんの鍵のお話、涙が出てきました。
アデレードで幸せになって下さいね。
私と同じ頃にブログを始めているんですね。
また遊びに来ますので、今後とも宜しくお願いします。